大谷君の『目標シート』を追い越すようなメジャーリーグのスピード感

大谷君の『目標シート』を追い越すようなメジャーリーグのスピード感

えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!(2) (写真提供・共同通信社)

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    gooスポーツ編集部
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 隔週連載なので、この間にネタがたまっている。大方の読者はおいおい、そこから入るのか思われるに違いないが、『アメトーーーク!』(4月19日放送)の「緊急!大谷翔平スゴイぞ芸人」の回から行こう。この回は「緊急!」と銘打たれただけあって、スタジオゲストがたった3人(アンジャッシュ渡部建、長島三奈、ますだおかだ岡田圭右)という薄さ(失礼!)だった。基本はメジャーに渡った大谷翔平の活躍をわーきゃー騒いで、これまでの「大谷スゴイぞ芸人」のVTRををつなぐという、アリモノ流用パターンだった。それでもテレ朝の「高校野球食い込み力」をナメてはいけないのだ。必ず驚くべき「大谷秘宝」が出てくる。

 2017年放送回の「人生の目標シート」(長島三奈が大谷家から借りてきた)の衝撃はすごかったのだ。夢年表状態といったらいいのか、大谷君が高校時代に立てた人生上の目標が年齢ごとに書いてある。「18歳メジャー入団」「19歳3A昇格、英語マスター」「20歳メジャー昇格、15億円」「21歳ローテーション入り、16勝」「22歳サイヤング賞」「23歳WBC日本代表」「24歳ノーヒットノーラン、25勝達成」「25歳世界最速175km/h」「26歳ワールドシリーズ優勝、結婚」「27歳WBC日本代表MVP」「28歳男の子誕生」…、と続き、40歳の引退、その後、岩手に戻りリトルリーグの監督を務め、最後はハワイで悠々自適の暮らしを送るまでが細かく記されている。お子さんは二男一女に恵まれるそうだ。年表の欄外には「野球人生」「悔いのない人生に」「俺の人生を野球に」「人生が夢をつくるんじゃない! 夢が人生をつくるんだ!!」「俺がやらなくて誰がやる!?」と大書されている。まさに「大谷秘宝」だ。一見、高校生のぽわーんとした夢に見えて、本当に実現しそうなところがすごい。

 今回放送分には大谷君が花巻東高野球部の部室に残した「目標シート」が借り出された。さすが長島三奈さん。あんなもん、フリーランスが何回足を運んでも借りられないよ。「願望成就・目標必達チャート」「分野 目標/願望の分析」という欄に細かい字で「2013年3A昇格」「2014年メジャー昇格 15億円」「2015年サイヤング賞」…と書き込まれている。これは野球部の佐々木洋監督が作成したシートである。四辺を黄色のマジックで囲み、赤マジックで「野球界の歴史を変える」「世界最高のプレーヤー!」「夢は近づくと目標に変わる」、青マジックで「俺がこの道の開拓者になる」と書いてある。

 今回、僕がテーマとして取り上げたいのは大谷翔平をとり巻く時間感覚だ。感動しないですか。「人生の目標シート」と「目標シート」。大谷君は10代でロードマップにすべてを記していた。彼の10代の予定では(日本ハムに入団するなんて考えたこともなく)、とにかく高卒でアメリカに渡り、マイナーリーグからメジャー昇格を考えていたことがわかる。面白いことに投手としての成功がイメージされている。「二刀流」はどちらのシートにも一度も出て来ない。つまり、10代の終わり、いきなりNPBのドラフト指名という変数が加わったのだ。そこで予定外の「二刀流・大谷」が誕生する。「野球界の歴史を変える」「俺がこの道の開拓者になる」は別の意味を持って輝きだす。

 というところでメジャーシーンに目を向けたいのだ。僕が舌を巻いたのは大リーグのスピード感だ。この間、大谷君は強打レッドソックス相手にKOを食らい、打者としては「大谷シフト」を張られて、(本来なら)センターへ抜けようかという当たりを真正面のショートゴロ(2塁ベース付近にショートが守っていた)に切って取られている。レッドソックスのデータ収集すごくないですか。東地区の雄、ボストンレッドソックスとは今季初めて当たったのだ。かつ大谷翔平はメジャーデビューしてまだ半月だ。それが投手としても打者としても研究されていた。

 まぁ、投手としては一回ローテがスライドして登板間隔が空き、力みがあったという事情もある。魔球スプリットが制球できず、スライダーを多投していた。が、1回先頭のムーキー・ベッツにいきなり低目の球をすくい上げられ、ホームラン被弾、2回66球、4安打3失点でKOである。150キロ台後半のフォーシームが狙い打ちされた。あんな速球がそんなにすぐ打てるものなのかと思う。
 打者としては「大谷シフト」だ。繰り返しになるが半月前にデビューした新人だ。そんなシフトなんてエンゼルスの主砲マイク・トラウトならわかるけど、NPBならまず初対戦から実施することなどない。それがメジャーはデータを重視し、すぐやってみるのだ。僕は「大谷シフト」がもう出現したかと仰天した。しかも、それが全体にポジションを右に寄せるプルヒッター型のシフトなんで二度びっくりだ。日本では大谷君の打球は逆方向のイメージだろう。

 で、レッドソックスのスピード感に驚いていたら、4月23日朝はエンゼルスに驚かされた。あわてて早朝にはね起きた。何と大谷君が「初4番DH」で先発だ。どんだけメジャーはスピード感あるんだ。日本ハムだって4番はなかなか打たせなかったぞ。

 たぶん大リーグの時間感覚は僕らのモノサシと違っているのだ。大谷君だって高校時代の「目標シート」に、まさかデビューひと月も経っていない時点での「大谷シフト」や「初の4番」は書き込まなかっただろう。やっぱりアメリカはチャンスの国だ。実力あるヤツ、魅力あるヤツはどんどん使っていく。これからは大谷君の「目標シート」的な時間感覚と、メジャーのスピード感が競争するような感じになるだろう。

 追記、25日朝はついに投手・大谷翔平が前年王者・ヒューストンアストロズに挑むというドリームイベントだった。この日、大谷君は渡米後最速の163キロをマーク、勝ち投手の権利を残したまま6回途中降板したが、リリーフが逆転を許し3勝目はならなかった。とはいえ、スプリンガー、アルトゥーベ、コレアと大谷君が真っ向勝負しているという事実に震えたのだ。投手成績は5回1/3、6安打4失点。

<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。中央大学時代に仲間と創刊したミニコミ誌『中大パンチ』の原稿が『宝島』編集者の目に留まり、商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを執筆。網羅するジャンルは多岐に渡り、特に多くのスポーツコラムを連載。ラジオのパーソナリティーとしても文化放送、TBSラジオに出演中。

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