圧巻だったバーランダーとの対決!

圧巻だったバーランダーとの対決!

えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!(4) (写真提供・共同通信社)

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    gooスポーツ編集部
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 読者の皆さんはFOXスポーツで今年、日本語吹き替え版の初回放送をやってる『ピッチ 彼女のメジャーリーグ』というドラマをご存知だろうか。これは珍品といっていい海外ドラマだ。カイリー・バンバリー主演の野球ものだが、演じている役が何と「MLB初の女性投手、ジニー・ベイカー」なのだ。まぁ、設定は70年代の野球小説『赤毛のサウスポー』(ポール・R・ロスワイラー著)の焼き直しなのだが、あまり数字が取れなかったらしくたった10話で打ち切りになっている。

 珍品なのは全10話という短命もさることながら、サンディエゴ・パドレスの全面協力によって製作されたところだ。本拠地ペトコパークの裏側が覗ける。フロントの人間模様は多少、戯画化されてるが、野心に満ちた若きGMがいたり、セイバーメトリクスを駆使する参謀役がいたり、ブロンドのスポーツエージェントが主人公ジニーのメディア露出やバリューをコントロールしていたり、なかなか面白い。ジニーの実兄が(有名になったジニーの名前を冠した)レストランを始めようとして、美人エージェントが問題視するくだり(「(バリューを管理する立場としては)ジニー・ベイカーの名前を出した店が、すぐつぶれるようなことがあってはならないのよ」など、けっこうリアルに思えた。

 もちろん僕は『ピッチ 彼女のメジャーリーグ』を大谷翔平を思い浮べながら見ていた。ジニーは「史上初の女性大リーガー」であり、大谷は「ベーブルース以来の二刀流プレーヤー」だ。どちらも社会現象というくらいの注目を浴びている。いや、ドラマでなく現実の出来事であればジニー・ベイカーは大谷以上だろう。女性であり、しかも黒人プレーヤーなのだ。逆風も大変なものだろう。で、僕が注目したのはジニーも大谷も西海岸のローカルチームに所属したことだ。人気球団のヤンキースやレッドソックスではない。西海岸ならドジャースではない。ローカル球団だと、いくらブロンドのスポーツエージェントが頑張ったってメディアコントロールが大変だ。僕の見たところ、パドレスはジニー・ベイカーの人気沸騰を到底さばききれていない。

 大谷翔平はその後、経済紙『ウォールストリートジャーナル』で特集が組まれる等、社会現象化に歯止めがかからない。ちょっとこれまでの「日本人メジャーリーガー」とは違う情報量なのだ。大谷もこれまでの「日本人メジャーリーガー」と同じように圧倒的な数の日本の取材陣に囲まれている。もしブロンドの美人エージェントがいたら、何より日本の取材陣の相手でヘトヘトになるだろう。ややもするとそれは日本向けにパックされた「本場で活躍する日本人メジャーリーガー」という構図に陥りかねない。

 日本向けにパックされた「本場で活躍する日本人メジャーリーガー」の構図は見慣れたものだ。僕は過去、「野茂英雄が投げるイニングの表だけつなげた録画中継(つまり、ドジャースの攻撃は一切映さない。野茂が投げないからだ)」を見せられたこともあるし、「ヤンキース攻撃のとき、画面の右肩に出た『松井の打順まであと6人』みたいなテロップ」に耐えたこともある。(日本のメディア関係者からは)どうも日本人は日本人にしか興味がないと思われてるらしい。スポーツがスポイルされるのは残念なことだ。野茂英雄も松井秀喜も成し遂げたことはもっと大きいのに。

 ただ大谷翔平は僕らの目線をスポーツのリアルのところまで引き上げてくれる。僕がここ最近でいちばん感動したのは(奪三振ショーでもホームランでもなく)、バーランダーに牛耳られた5月16日の試合だ。本拠地エンゼルスタジアムにアストロズのエース、ジャスティン・バーランダーを迎えた一戦、大谷は「2番DH」でスタメン出場した。これが完全に抑え込まれた(3三振)のだ。何もさせてもらえないどころか、史上33人目となる2500奪三振の記録を奪われて完封負けを食らった。

 「野球をやってきて、おそらく打席のなかで見たいちばん速い球じゃないかなと思います。それはスイングしていても、ここまで品のある球というか、スピードもそうですけど、なかなか経験したことがない」

 三振を喫してベンチに帰るときの顔が本当によかった。「やられた~」ではあるけれど、やり返そうと決意している顔、事態を咀嚼している顔。バーランダーは今季、フォーシームを使う攻め方で、より一層、迫力を増しているのだが、大谷もさっそく次の登板で「品のある」きれいな回転のフォーシームを勝負球に使った。早く次のバーランダーとの対戦が見たいものだ。たとえ「日本人プレーヤー」が何もさせてもらえなくても、メジャーリーグはとびきり面白い。

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<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。中央大学時代に仲間と創刊したミニコミ誌『中大パンチ』の原稿が『宝島』編集者の目に留まり、商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを執筆。網羅するジャンルは多岐に渡り、特に多くのスポーツコラムを連載。ラジオのパーソナリティーとしても文化放送、TBSラジオに出演中。

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