スカパーの現場でコロンビア戦を満喫する

スカパーの現場でコロンビア戦を満喫する

えのきどいちろうワールドカップ雑記帳(1)(写真提供・共同通信社)

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    gooスポーツ編集部
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 正直に書く。僕は西野ジャパンの成り立ちにそもそも納得がいってなかった。今でもハリルホジッチ解任は不可解かつ時期を逸した泥縄人事だと思うし、その上、技術委員長だった西野さんが後任ではスジがぜんぜん通らない、世界のサッカー界は「ハリルは後ろから撃たれた」と受け取るだろうと思った。つまり、ロシア大会の日本代表に関して複雑な感情を抱いていたのだ。

 その「複雑な感情」はコロンビア戦の朝、川淵三郎・日本サッカー協会相談役が「ハリルホジッチ監督の時、ほとんど勝てる可能性がないので、オランダ、イタリア、アメリカのサッカーファンのことを考えれば出場できるだけラッキーと考えてW杯を楽しんでくださいと講演などで話していた(後略)」とツイートしてるのを見て倍増する。何でこんなことを言うんだろう。西野ジャパンをアゲるためにハリルをくさす意味がわからない。そのW杯出場権は一体どの監督がもたらしてくれたのか。

 微妙にかたづかない気持ちを抱えて、夕方、江東区のスカパー東京メディアセンターに入ったのだ。番組出演だ。スカパーの恒例企画『俺に言わせい! サッカーおやじ会』。これはサッカー実況の八塚浩アナを司会に、飲み屋屋台のセットを組んで文字通り「サッカーの居酒屋談義」をくりひろげる番組だ。スカパーは今大会もW杯放映権を持ってないので、試合自体はNHKで見てもらう。「おやじ会」は試合前後の1時間ずつ、他局をアテにしてフリートークをお送りするのだ。まぁ、一種のゲリラ企画というのか。但し、ゲストは毎回、スカパーならではの濃いサッカー人をブッキングする。この夜は渡邉一平さん、中西永輔さんの解説者コンビ(とライターの僕)であった。

 だから僕はコロンビア戦を渡邉一平、中西永輔のお二人と一緒に見る機会に恵まれたのだ。これは最高であった。話した印象では、お二人とも決して西野ジャパンの成り立ちにもメンバー選考にも得心がいってるわけじゃなかった。スタメンが発表になって、そこにも色々と注文が出たりした。だけど、元選手というのは腹がくくれる。悪天候だとか理不尽な判定、運不運をいやというほど味わい、それを受け入れ、切り替えて前に進んできた人たちだ。

 そして楽屋で、中西永輔さんから98年フランスW杯初戦、アルゼンチン戦の試合前の様子を聞かせてもらったのもよかった。初出場時の日本代表がぶつかったのも南米の強豪アルゼンチンだった。DFの中西さんはクラウディオ・ロペスをマークする役目だった。「あのときのやってやる、やるしかないっていう気持ちと、今、ロシアで試合を待つ日本代表の気持ちは同じだと思います。自分が夢の舞台に立ってると思うと、自然に涙が出て、うるうるしてるんですよ。ウソじゃなく、命がけで闘おうって思いますよ」

 さて試合はご存知の通り、開始3分、大迫勇也が放ったシュートのこぼれ球を香川真司がダイレクトで打つ。それをカルロス・サンチェスが手で止めた。主審はPKを宣告し、かつ一発レッドだ! W杯史上で2番目に早い退場劇だった。PKを香川が決め、日本は圧倒的なアドバンテージを手にする。ほぼよーいドン!で1点もらって、相手が10人になったのだ。

 スカパーの楽屋は大騒ぎになった。八塚アナ、高橋茉莉さん、スタッフも入り乱れてのハイタッチ。そこからは座が乱れて、ホームパーティー状態だ。渡邉一平さんはソファからずり落ちてあぐらをかき、酎ハイを飲んでいる。試合はそこから微妙なことになり、次第にコロンビアが落ち着いてくる。ついに39分、直接FKで同点弾を決められた。このとき、渡邉一平、中西永輔のお二人が傑作だったのだ。何しろどちらもDFだ。大声でコーチングである。中西さんが「左の壁が足りない! 川島(永嗣)のポジションおかしい!」と言いつのる。その直後、キンテーロの左足FKが壁がジャンプした下を抜けた。GK川島は両手で抑えるが、キャッチしたポジションがゴールの内側だった(!)。

 そこからGK川島はたぶんミスを引きずってしまった。終了までハイボールに対して出るのか出ないのかの判断が不安定になる。渡邉一平さんは言う。「僕らDFは試合中、ずっとストレスを受け続けるので、後ろだけは気にしたくないんです。後ろでストレス受けるのがいちばん嫌なんです」。僕はDFの生理を教えてもらいながらぐんぐん熱戦に没入する。

 59分、ペケルマン監督が勝負手を打ってくる。ハメス・ロドリゲス投入だ。ふくらはぎの不調が報じられ、その真偽が話題になっていた。スコアは1対1、ハメスが万全ならヤバい。もし、不調の報道が日本を惑わせる「情報戦」ならハメス投入はとてつもない脅威だ。僕はブラジルW杯、コートジボアール戦の「ドログバ効果」を連想した。

 が、ハメス投入は明らかに逆目に出た。やっぱり本調子とは程遠かったのだ。ハメスが入ってむしろコロンビアの勢いが止まる。そして73分、攻守に奔走していた大迫勇也(本当に超人的だった!)がCKからヘッドで決勝点を決める!

 スカパーの楽屋は全員、叫んでいた。もう、何がどうなってもいい。勝った。最高だ。そのとき、僕はちょっと半泣きになりながら思い知ったのだ。納得できないことは納得しちゃダメだ。結果に一喜一憂してるだけじゃ日本サッカーに何も残らない。残るのは結果でなく、プロセスの積み重ねの方だ。それは断じてそう思うし、撤回するつもりもないのだが。

 ワールドカップで勝つのはこんなに嬉しいんだ。中西永輔さんはご自身がフランス大会で成し遂げられなかった「南米チームへの初勝利」を見て、感無量でバンザイしている。幸福な夜だった。いつまでもいつまでも余韻が続いていた。

<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。
gooニュース スポーツコラム「えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!」をはじめ、多くのスポーツコラムを執筆。
スカパー!サッカー番組のパーソナリティーも務め、ロシア大会関連番組にも出演中。

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