大谷翔平のロジカル思考と宮本武蔵のロジカル思考

大谷翔平のロジカル思考と宮本武蔵のロジカル思考

えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!(6) (写真提供・共同通信社)

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    gooスポーツ編集部
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 大谷翔平は6月28日(日本時間29日)に右ひじの再検査を行なって、今後の方針が決まる見通しだ。現在、エンゼルスが希望しているのは「打者として制限なし」、いわゆる「一刀流」での戦列復帰と見られている。この間、様々な報道が出たが、僕がいちばん大谷らしいと思ったのは「大谷、左手だけでティー打撃再開 監督が明かす」(6月16日付 日刊スポーツ)である。感動した。何なんですか、この野球好きは。誰が考えたってムリする必要なんかないのにじっとしていられない。野球がしたくてたまらない。もうこれは根本的な部分で「野球少年」だ。

 と、同時にこの記事から僕は宮本武蔵を連想したのだ。ほら、宮本武蔵の「二刀流」は太刀と脇差、それぞれを片手で使うじゃないか。僕らは大谷の超人的な活躍を見て、簡単に「二刀流」と口にしてきたが、そもそもの「二刀流」とはどんなものなのかと考えた。本当に剣を極めるなら(片手で脇差なんか持たなくても)一刀で十分強いんじゃないかなぁ。

 調べてみたら発想がぜんぜん違うのだった。宮本武蔵を開祖と仰ぐ「二天一流」は戦う合理性を追求した、非常にロジカルな流派であった。いいですか、驚くなかれ、「二刀流」は二刀にこだわらないんですよ。あるものを使う。イメージとしては戦場で矢尽き刀折れたシーンを思い浮かべてください。だとしても、自分のなかにある戦闘力を最後の最後まで出し切る。潜在力を眠らせない。脇差があるから使う。それが「二天一流」の極意だ。

 つまり、大谷の「左手だけでティー打撃」はものすごく「二刀流」の本義に適っている気がした。また(「投手も打者も」ではなく)「投手として戦えないなら打者として戦う」も実は大変、宮本武蔵的なロジカル思考だ。僕は調べてみて驚いたのだ。もう一度、強調したい。「二刀流」は二刀にこだわらない。

 では、大谷翔平自身のロジカル思考について見ていくことにしよう。先日、ジャーナリストの石田雄太さんと雑誌対談でまたお会いして、『大谷翔平 野球翔年I 日本編』(文藝春秋)を署名付きでいただいたのだ。石田さんご本人は「本が出来たと思ったら故障者リスト入りです…」とツキのなさを嘆いておられたが、この労作の値打ちはそのくらいじゃ少しも損なわれない。

 僕がしびれたのは「音合わせ」という考え方だ。先ほどの「左手だけのティー打撃」や、この間、ジムにこもって取り組んでいるであろう筋トレをイメージしながら聞いていただきたい。

 大谷の潜在力が一気に花開いたのは日本ハム入団2年目、2014年シーズンだ。この年、投げては11勝4敗、打ってはホームラン10本で「ベーブルースの再来」と騒がれたのだ。この年の飛躍を大谷自身はこう語っている。

 「球速が上がったのは、身体が強くなったことだと思っています。だから、去年のオフにやってきたウエイトトレーニングはすごく大きかったなというのがひとつ、あとは、大きくなった身体を動きのなかでうまくまとめられたこともよかった」(『野球翔年I 日本編』より、これ以下同じ)

 実はこの年のキャンプ初日、大谷は栗山英樹監督から大目玉を食らっている。フォームがバラバラだった。ウエイトトレーニングで身体をでかくしすぎたんじゃないか。身体を大きくしてパワーをつけると、そのパワーを使うためのチューニングが必要になってくる。それについての大谷の見解。

 「オフの間にトレーニングして身体も大きくなっていたんですけど、その間、僕はあんまり投げてなかったんです。万人共通のピッチングフォームは絶対ありませんし、僕の身体が変われば僕のフォームが変わるのは当然のことですから、オフの間に身体が変われば、フォームが変わってくるのは自分でわかっていました」
 
 「だって、音合わせの作業は、キャンプが始まってからでいいなと思ったんです」

 音合わせという用語が出てくる。オーケストラや大編成のツアーバンドみたいだ。大谷が身体能力をどんなにロジカルに捉えているかがよくわかる。

 「運転能力の未熟な人が、高性能のスポーツカーを運転してうまく操作できるのかって言われたら、すぐには難しいと思うんです。それと同じことで、技術の向上とは別に体力が上がっていくのは悪いことではないし、体力が上がるに越したことはない。使う身体がしっかりしてくれば、違うフォームが必要になります」

 くどいけれどもういっぺん強調する。「二刀流」は二刀にこだわらない。そのとき持っている「使う身体」を使いこなし、使い切って戦う。僕は確信を持った。大谷翔平の2018年シーズンは止まらないと思う。今、ひじが悪ければ彼はその条件のなかで「脇差」を抜くに違いない。

<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。中央大学時代に仲間と創刊したミニコミ誌『中大パンチ』の原稿が『宝島』編集者の目に留まり、商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを執筆。網羅するジャンルは多岐に渡り、特に多くのスポーツコラムを連載。ラジオのパーソナリティーとしても文化放送、TBSラジオに出演中。

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