親孝行ビューイングでポーランド戦を満喫する

親孝行ビューイングでポーランド戦を満喫する

えのきどいちろうワールドカップ雑記帳(3)(写真提供・共同通信社)

  • サムネイル
    gooスポーツ編集部
  • 公開日:

 決戦の日は日本じゅうが朝からわさわさしていた。グループ突破をかけたポーランド戦だ。言うまでもないがポーランドは強豪だ。2敗して、既に予選敗退を決めているけれどFIFAランキング8位だ。あくまで「61位の日本」が「8位ポーランド」に挑むのだ。油断すると前日、韓国に負け予選で散ったドイツ(前回王者!)の二の舞になりかねない。日本じゅうが朝からわさわさしていたのはそれでも「勝てるんじゃないか」「勝つといいなぁ」という期待感だ。サッカーが久々に国民的関心事になっている。

 夜、新宿武蔵野館で映画を見てから、僕は小田急線で向ヶ丘遊園の実家へと向かった。ポーランド戦は母と見ようと決めていた。母は当年82歳のおばあちゃんだ。2年前、父が亡くなってからはひとり暮らしである。近くに妹(ケアマネの仕事をしている)が住んでいて、何かと面倒見てくれているが、やっぱりひとりは寂しいらしい。しばらく気落ちしていた。
 
 で、僕は考えたのだ。サッカー日本代表のテストマッチはどうせ見る。別に実家で見たっていいじゃないか。DAZNやスカパーじゃなく、地上波だ。実家のテレビで見られる。というわけでその後、ハリルJAPANの試合は基本、実家で見るようになっていた。個人的には「親孝行ビューイング」と呼んでいる。

 母に変化が起きたのはアジア最終予選のオーストラリア戦(2017年8月31日)だ。週アタマに電話したら「いよいよオーストラリア戦だね」と言う。大一番の意味を理解しているのだ。試合はハリルホジッチ監督会心のものになった。代表シャツの親子が大拍手を送ったのは言うまでもない(母には家に眠っていた「明神 12」のシャツを着せた)。

 ことはユニバーサルアクセス(国籍、年齢、地域、社会階層と関係なく、すべての人が情報にアクセスできること)にかかわることだと思う。ワールドカップは「渋谷で大騒ぎする若者」だけのものではない。82歳の老母もアクセスしている。ていうか82歳もアクセスするから日本代表なのだ。同年代の友人に聞いても皆、「そういえばセネガル戦、うちのおばあちゃんも見てた」「デイケアに送って行ったらサッカーの話題で持ちきり」等と言う。もしかすると高齢者は(あんまり寝ないから?)時差に強いのか。

 母はサッカーを見ながら意外と面白いことを言う。井出口陽介を「これは近所の大工」と言い切ったときは笑った。まぁ、風貌はそんな感じかもしれない。母は「近所の大工」が大のお気に入りで、W杯代表から外れたときはしばらく怒っていた。「あんなに頼りになる大工はいない」そうだ。どうも井出口という名前よりも「大工」でインプットされてるフシがある(井出口選手すいません)。

 今回のワールドカップで引っかかっているのは、断然、GK川島永嗣らしかった。初戦コロンビア戦の「FKゴールライン内キャッチ」に始まって、セネガル戦のパンチングのミス等、西野JAPANの不安要素になっている。母の言いぶんはこうだ。

 「川島は男らしい、堂々とした顔しちゃってるんだよねぇ。堂々として、味方を安心させるときはいいけど、(ゴール内でキャッチして)入ってません入ってませんって審判に言ってるとき、自分でウソだとわかっててかわいそうだった。堂々とした顔に生まれた男は、ああいうときも堂々とした顔なんだよね」

 代表シャツの親子は、もちろん川島の応援である。「がんばれ川島」「大丈夫だ川島」 どうもその思いは国民的に共有していたようだ。実況アナは大したことないやつもスーパーセーブみたいに言う。後半14分、相手FKの場面でベドナレクをフリーにしてしまった。先制失点。母は「しっかり川島捕れないかな、川島がちゃんと捕んなきゃダメなんだよ」。いや母さん、ここはファウルのきっかけになった山口蛍や、マークを外した酒井高徳だったかもしれないよ。

 で、試合自体は0対1で敗れるんだけど、ご存知の通り、試合終盤、(他会場の経過をにらんで)時間つぶしに終始するモヤモヤ展開になった。実家のテレビもスイッチングを繰り返し、「どこを応援したらいいのかねぇ」(母)という状況だ。「とにかく何も起きるなと思ってサッカー見よう!」(息子)と意思統一した。レギュレーションの機微は簡単には説明できない。

 H組の2試合が終わった。反則数の差で(ポーランド戦は負けたけど)日本代表決勝トーナメント進出!この限りなくサッカー的な結末が母にはピンと来ないのだった。3時からの試合は見てられないから電気消して寝ようということになっても、「でもさ、向こう(セネガル)が1点取っちゃったらどうなったの?」「うーん、日本は予選敗退だね」、「バカみたいだってことにならない?」「うーん、言われちゃったかな」と寝床で質問が続いた。

<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。
gooニュース スポーツコラム「えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!」をはじめ、多くのスポーツコラムを執筆。スカパー!サッカー番組のパーソナリティーも務め、ロシア大会関連番組にも出演中。

えのきどいちろうワールドカップ雑記帳 バックナンバー

gooニュースではロシアW杯速報実施中!

内容について報告する