レイソルサポのお宅でベルギー戦に涙する

レイソルサポのお宅でベルギー戦に涙する

えのきどいちろうワールドカップ雑記帳(4)(写真提供・ゲッティ=共同)

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    gooスポーツ編集部
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 ロスタイム、ベルギーに完璧なカウンターを食らった。2-0リードからの逆転負けだ。しばらく放心状態で身動きができない。身動きしなきゃいけないのだ。今は日本時間5時過ぎで、ここは13階のOさんの家だ。Oさんは堅気のサラリーマンで、もちろん日本代表がベスト16で散ったとしても会社へ出かける。国破れて会社あり。長谷部選手の談話の途中でお礼を申し上げて、帰り際、玄関のところでがっちり握手した。

 僕は決勝トーナメント1回戦の強豪ベルギー戦を、同じマンション13階のOさんの家で見たのだ。Oさん一家は熱心な柏レイソルサポで、かつ海外サッカーのファンでもある。ベルギー戦もどこか変わった場所で見たいなと思っていたら、今週、ちょうどいいタイミングでOさんからLINEが来た。で、お邪魔していいか打診してみたのだ。やっぱりね、こういう試合は同じ熱を持ったサッカー好きと一緒に見るのが楽しい。うちのマンションの場合、ダントツでOさんなのだ。この人のサッカー愛は信用できる。

 で、素晴らしいことにマンションのエレベーターが(電車と違って)終夜営業なのだった。何時になっても移動できる。キックオフ10分前に11階の我が家からビールの6缶パック持参で出かけて、30秒後にはOさん家の玄関だ。もちろん「迷惑じゃありませんか?」と何度も念押しした。親しき仲にも何とやら、さすがに未明3時によそ様のお宅へ伺うというのは気が引ける。そうしたらOさんが「カミさんは寝てますが、いつもそのパターンで夜中見てますよ。寝室とリビングは離れてますから」と、これはチャンピオンズリーグやなんかをオンタイムで見てるということだろう。というわけで夜中お邪魔することになったのだ。

 リビングに当然のように「レイくん」(柏レイソルのマスコット)のぬいぐるみが飾られている。僕はとにかく今大会の酒井宏樹(マルセイユ所属。元柏レイソル)の奮闘をほめ称えた。マネ(セネガル)を抑えちゃったもんなぁ。驚異的な安定感だ。それからGK中村航輔(柏)は「もし、コロンビア戦のミスで川島永嗣が2戦目からスパッと代えられていたらチャンスあったんだけどね」という話になった。次の代表正GKは中村航輔で間違いない。おそらく航輔も川島の苦闘を間近で見て、学ぶところ大だったろう。

 テレビに映るスタンド風景の「ベルギー応援コスプレ」が懐かしかった。2002年、日韓W杯のH組初戦、日本×ベルギー戦、僕は埼スタの上層階にいた。そのときご一緒したのはサッカー画家の五島聡さんだが、二人して身体の震えが止まらなかったのを覚えている。武者震いって本当にあるんだ。いや、その感じは五島さんと僕だけじゃなく、埼スタを埋めた6万大観衆の全員がそうだったと思う。歓声でも、チャントでも空気がビリビリ震えた。思いが空気を震わせた。日本サッカーの運命をこじ開けたい。あのとき、埼スタで見た「赤い悪魔」(ベルギー代表の異名)たちとそっくり同じコスプレが映っている。全身が赤くて帽子からツノが生えていて、手に「虫歯くんが持ってそうな先っぽが三つに割れたヤリ」を持っている。あの興奮から16年だ。鈴木隆行のつま先ゴールから16年だ。

 Oさんに「そういえば西野さんは柏の監督さんでしたね?」と聞く。現役時代は日立製作所の選手で、1998年から2001年の期間、柏レイソルを率いた。Oさんは「柏初めての日本人監督です。99年のナビスコ杯優勝監督です」。で、僕は2002年の思い出を話す。「ベルギー戦が2-2のドローに終わった後、僕はお台場・青海のスカパーへ帰らなきゃいけなかったんです…」。日韓大会中、僕はスカパーのW杯番組のキャスターだった。だから夜の生番組に合わせてスタジオへ戻る必要があった。ベルギー戦は通常のチケットで入場したけど、帰りにFIFAのアクレディパスを鞄から取り出す。スカパーのマイクロに乗っけてもらって帰る手はずだった。アクレディを係員に提示して駐車場へ急ぐ。と、マイクロに人影が。乗り込んでみたら、西野朗さんだった(!)。当日のスカパー解説は西野さんなのだった。西野さんを先に浦和のホテルまでお送りする。

 初めて至近距離で見た西野さんは本当にダンディだった。前年、柏の監督を退任され、その年、G大阪を率いたばかりだ。で、その年は早々、古巣柏との対決が実現した。西野さんは古巣をやっつけて、派手なガッツポーズをした。僕は「柏を負かしてガッツポーズ、かっこよかったですね!」と声をかけた。西野さんは「別に僕は柏を特別…」、語尾が小さくなった。特別意識なんかしていない。世間がそう見てるだけだ。そういうことだったと思う。

 そしてマイクロは埼スタを出る。そこで僕らは奇跡のような光景に出くわす。西野朗さんも、倉敷保雄さんやスカパーのクルーと共に車窓からそれを見た。沿道に人垣がずっと続いているのだ。夜の国道の両脇に何キロにもわたって家族連れや若者たちが立ち並んでいる。代表のチームバスを待っているのだ。勇気を奮い「赤い悪魔」に立ち向かった英雄たちに拍手を送りたいのだ。自然発生的なパレードだった。南米のサッカー大国の光景みたいだ。西野さんも「すごいなぁ」を連発しておられた。

 時は過ぎて16年の後――。大会直前に急ごしらえされた「西野JAPAN」がロシアW杯の冒険を終えた。2点先制し、Oさんの家でハイタッチしたのは思い出になるだろう。そこから選手交代の妙でやられた。長身のフェライニ投入は効いた。残念すぎる逆転負け。

 僕は結果で右往左往しないつもりだ。ハリル解任→「西野JAPAN」誕生に至るいきさつには不明朗な点が多い。結果に満足して「感動をありがとう」一辺倒になるのはよくないと思う。「西野JAPAN」のアプローチ、その取り組んできたプロセスや、今後に向けての宿題をしっかり記録に残してほしい。結果が残るのでなく、プロセスが残るのだ。それが日本サッカーの財産になる。

 だけどね、前例のない重圧のなかで戦った「西野JAPAN」は素晴らしかった。僕は賛辞を送りたい。西野さん、日本代表はまだロシアにいるけれど、あの日と同じです。今朝、日本じゅうの沿道には見えない人垣が出来ています。皆、青いシャツを着て拍手を送っています。ナイスファイト&おつかれ様でした。

<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。
gooニュース スポーツコラム「えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!」をはじめ、多くのスポーツコラムを執筆。スカパー!サッカー番組のパーソナリティーも務め、ロシア大会関連番組にも出演中。

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