大谷翔平に『復帰早々』とか『試合勘』とか言っても意味がない!

大谷翔平に『復帰早々』とか『試合勘』とか言っても意味がない!

えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!(7) (写真提供・共同通信社)

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    gooスポーツ編集部
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 神様は大谷翔平を見放さなかった。6月末の再検査の結果が良好だったのだ。自身から採取した血小板を集めて、患部に注射する「PRP注射」(効果には個人差があると言われる)が修復力を高めてくれた。7月3日(日本時間4日)のエンゼルス公式ツイッターは「SHOWTIME♪ 誰が戻ってきたと思う?」と高らかに告げた。ツイートにファンの歓喜の声が連なる。同日のシアトルマリナーズ戦、「6番DH」でスタメン復帰だ。打者としての出場は6月4日以来だから丸1ヶ月ぶり、いきなりライジングスターが帰ってきた。

 僕は何か「第2のデビュー戦」を見るような気持ちでドキドキしていた。日本だったらイースタンリーグで調整させて、試合勘を取り戻してから1軍復帰だ。エンゼルスのソーシア監督はそこをショートカットした。大谷の実力をわかっているからだろう。大谷不在の1ヶ月間、エンゼルスはケガ人が続出し、成績を落としていた。地元ファンにとっては待ち焦がれたカムバックだった。僕はこの間の経緯に関しても、大谷翔平って男は「ヒーローの星」の下に生まれたんだなぁと感じる。地元ファンにはチーム再浮上の切り札として期待を集める一方、日本のファンには(ちょうど大谷のDL入りのタイミングで過熱した)ロシアW杯「西野JAPAN」敗退と同時に、入れ替わりでスポーツニュースに復帰する。別に意図したわけでもないのに自然と注目が集まってしまう仕組みなのだ。

 しかし復帰戦は(元西武の左腕ルブランに)ノーヒットに抑え込まれ、さすがに初っ端から活躍を期待するのはハードル高いかなと思ったのだ。そうしたら失礼しました、翌日さっそくマルチ安打で勝利に貢献、大谷にはブランクも何もないのだと思い知らされた。つまり、試合に出ていなかっただけで(打席に立っての目慣らしも含む)トレーニングは欠かしてなかったということだ。

 6日から同じLAに本拠を置くドジャースとの「フリーウェイシリーズ」が始まった。初戦で実現したのが前田健太との日本人大リーガー対決だ。日本での対戦成績は「7打数2安打4三振」である。果たして舞台をアナハイムに移して、どんな勝負になるだろう。いやもう、「復帰早々」とか「試合勘」とか言ってる場合じゃなかった。一体何だろう、このいきなりのクライマックス感は。またマエケンが素晴らしかった。今季、三振を奪うため改良したといわれるチェンジアップ(めっちゃ沈む)が冴えわたる。第1打席は三球三振、第2打席はチェンジアップやツーシームをイメージさせておいて、内角をえぐる速球でポップフライに切り取った。大谷からすると日本での対戦では見たことのない球種だ。ヤンキースの田中将大もそうだったが、投球スタイルを進化させていた。日本の超一流がどうやってメジャーで生き残っているか、この対決は如実に示してくれた。

 ただそれでおとなしく引っ込む大谷ではない。(マエケン降板後の)9回裏2死、第4打席で四球で歩くと、果敢に盗塁を決め、送球が逸れた間に三塁へ進む。サインは「グリーンライト」(自己判断で盗塁して良い)だったそうだ。といって、もしアウトになっていたら即ゲームセットである。ヒリヒリするような局面だ。スコアは1対2。ここでフレッチャーのタイムリーが飛び出して同点、マエケンの勝ちが消えた。で、続くキンズラーが何とサヨナラ安打だ。大谷の走塁が劇的な勝利を呼び込んだ。

 実は以前、スポーツ紙で対談したとき、大谷から走塁の話を聞いたことがある。そのとき、僕が持っていた仮説は「大谷三刀流」説というものだった。一般には投打の二刀流だと思われているが、実際にはそこに走が加わるのだ。大谷は走らせて早いし、次の塁を奪おうと常にチャレンジする。そこにはポリシーがあるはずだ。

 「そうですね、走塁はいちばんその人が持ってる野球観が出るような気がしますね。僕はつい走ったり、すべり込んだりして(日ハム・栗山監督から)怒られたりしています」

 これは要するに何かというと、野球が好きでたまらない「野球小僧」だ。好走塁でサヨナラ勝ちを呼び込んだ翌日がまた傑作だった。「大谷シフト」の裏をかいて二度、セーフティバントを試みたのだ。ただ単にパワーピッチャー&パワーヒッターだと思ったら大谷の本質を見誤る。走攻守のすべての面でアグレッシブに仕掛けるのが好きなのだ。大谷の野球観はそこにあるんだと思う。

 世間的には8日(日本時間9日)、ドジャース戦で飛び出した決勝の7号代打ホームランをもって、大谷復活の狼煙が上がったという論調だけど、つまり僕はまったく別の見方をしている。ホームランはホームランで最高だ。あんな当たり見たら誰だってしびれるんだけど、大谷の復活はもっと奥行きのあるものじゃないか。盗塁をしたり、セーフティバントを試みたり、彼は野球全体に没頭している。「おっかなびっくり」とか「怖々」というのじゃなしに、いきなりゲームに入り込んでいる。「野球小僧」が帰ってきたのだ。ウェルカム・バック!

<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。中央大学時代に仲間と創刊したミニコミ誌『中大パンチ』の原稿が『宝島』編集者の目に留まり、商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを執筆。網羅するジャンルは多岐に渡り、特に多くのスポーツコラムを連載。ラジオのパーソナリティーとしても文化放送、TBSラジオに出演中。

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