大谷翔平はなぜ右ヒジを故障しながら、アリーグ週間MVPを獲得したのか?

大谷翔平はなぜ右ヒジを故障しながら、アリーグ週間MVPを獲得したのか?

えのきどいちろうの超・大谷翔平ウォッチング!(11) (写真提供・共同通信社)

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    gooスポーツ編集部
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 注目された9月10日(日本時間11日)のエンゼルス、ビリー・エプラーGMとの面談は「情報交換とオプション(選択肢)について話し合っただけ。何も決まってないので、GMも話すことがない」(球団広報)ということだった。大谷翔平の右ヒジ内側側副じん帯に新たな損傷が見つかった問題だ。これは悩ましい。トミー・ジョン手術(じん帯再建手術)に踏み切るかとうか、今後、最新医療の知見に基づき決断していくことになる。

 シーズン終盤戦に入って、大谷翔平をめぐる報道は二つに分離している。おそらくスポーツファンの間でも混乱が生じているのではないか。当初は9月初旬には投手として本格復帰するのじゃないかと見られていた。最初に発覚したじん帯損傷はPRP注射(多血小板血漿注射。自己治癒を促すもの)の成果によって、クリアされつつあった。大谷本人は打者として大活躍する一方、投げたくてたまらなかったようだ。冗談まじりにエンゼルスの対応を「超過保護」と断じた。キャッチボールからブルペンでの投球練習、そして短いイニングの復活登板。さながら「投手大谷」はシーズン途中に、キャンプインからオープン戦、そしてシーズンインへと至る期間をたった一人でやり直しているようだった。

 それが5日(日本時間6日)のMRI検査で暗転する。新たなじん帯損傷が見つかったのだ。医師はトミー・ジョン手術を勧めたと報じられている。「投手大谷」のストーリーは暗礁に乗り上げてしまう。トミー・ジョン手術の是非については論議のあるところだろう。必ずしも成功するとは限らない。わかりやすい例が大谷の先輩格のダルビッシュ有(カブス)だ。こういうことは個人差があり、成功例だって沢山あるけれど、ことダルビッシュに関しては芳しい状態とは言い難い。術後、日々痛みと戦い、腕を思うように扱えないでいる心労は想像するに余りある。またすべてがパーフェクトに進んだとしても、今季はもちろん来シーズンの登板もあり得ない。我々が今度、「投手大谷」を見るのは少なくとも再来年になるだろう。

 つまり、これは「才能を持った若者が投手生命の危機に瀕している」という由々しき事態なのだ。160キロの速球と多彩な変化球を自在に操り、日本人初のサイヤング賞だって夢じゃないスーパーエースが、やっと立てたメジャーの舞台からいったん姿を消す。大変シリアスな状況だ。僕らは「投手大谷」の雄姿をもう一度、見ることができるのだろうか。

 が、ここにもう一つ、「打者大谷」大活躍のストーリーが並行して展開されるのだ。スポーツファンが混乱してしまうのはここのところだ。「投手大谷」に赤信号がともる一方、「打者大谷」は10日発表された9月最初のアリーグ週間MVP(9月3日~9日)を受賞している。5試合に出場、打率.474(19打数9安打)、4本塁打、10打点、2盗塁の大暴れだ。7日のホワイトソックス戦では勝ち越し19号3ランを放ち、メジャー1年目の日本人選手として、06年の城島健司(18本)を抜いて単独トップに立った。まるで2人の選手の別々のストーリーのようじゃないか。「投手大谷」には暗雲が立ち込めたかもしれないが、「打者大谷」は雲一つない快晴だ。

 同じ新聞紙面に「投手大谷」の危機と「打者大谷」の活躍が両方載っている。右ヒジのじん帯損傷は「打者大谷」には影響がないらしい。これはNPB時代には見られなかった「二刀流」プレーヤーの、もう一つのストーリー展開だ。なるほど、こういうこともあり得るのかと唸(うな)った。僕らは同じ一人の選手を、心配しながら喝采を送っている。まさに2ウェイ。まさに天才。

 NPB時代、骨棘(こっきょく)で戦列を離れたときは故障部位が足だったから、「投手大谷」「打者大谷」が2人揃って(?)欠場した。今回は1人が休んで、1人が週間MVPの活躍を遂げている。もちろん投打の両方で大リーグをあっと驚かせてほしいのが本音だが、今、起きていることも十分にミラクルじゃないか。過去、こんなに才能がある選手が出現したことがないから「1人が休んで、1人が週間MVPの活躍」(?)なんて前例がなく、みんなピンと来ないのだ。

 トミー・ジョン手術に踏み切れば「投手大谷」だけでなく、「打者大谷」もしばらく稼働できないことになる。来シーズンは一体どうなるだろう。ちなみに「打者大谷」にはじん帯再建は全く必要ないそうだ。専門知識のない僕はこれ以上のコメントは控えるが、どうかこのギフト(天才)を与えられた若者を生かしてほしい。同時代に居合わせた僕らが生涯で1人逢えるか逢えないかという才能だ。

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<えのきどいちろうプロフィール>
1959年、秋田県生まれ。コラムニスト。中央大学時代に仲間と創刊したミニコミ誌『中大パンチ』の原稿が『宝島』編集者の目に留まり、商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを執筆。網羅するジャンルは多岐に渡り、特に多くのスポーツコラムを連載。ラジオのパーソナリティーとしても文化放送、TBSラジオに出演中。

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